藍読日記 ☆読んだ本と『幻想文学』関連の情報、その他の情報をお届けします。         2003/7/5更新
★読書メモについては主観的かつ恣意的な趣味に基づく書き散らしです。文責はすべて石堂藍にあります。
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2003年3月


1日
『戦場のピアニスト』を観る。確かにゲットーやワルシャワの街路のシーンなど、金はかかっているのかも知れないが、凡作だと思う。音楽そのものに支えられたようには見えないうえに、著名なピアニスト(ポーランド一、いや世界一、などという台詞もある)だったので助かったというだけのことにしか見えない。親や姉弟はたぶん(親は確実に)収容所で死んでいるのだろう、トレブリンカ行きの列車のところで別れたきり、一言のコメントもない。ピアニストはゲットー蜂起には参加しない。そのときにはすでに匿われている。解放数週間前にドイツ将校に見つかってしまい、ピアノを弾いてみせて(二年も鍵盤に触れてなくて、ろくに飯も食ってないのに、ちゃんと弾ける! すごい。隠れ家で暇だったから指だけ動かし続けていたんだろうな……とか思う。そういうシーンは一箇所しか出てこない)助かるのだが、最後の最後だったので、将校も倦んでいたんだろう、ぐらいの感慨しかわかない。もしも将校が名前を告げていれば、自分が助かりたいため、としか見えなかったろう。「加害者ドイツ人、被害者ユダヤ人という単純な図式ではない」なんぞとパンフにはあったが、単純な図式にしか見えない。
 ピアノを弾くシーンがもっとたくさんあるのだと思っていたらしい次男もちょっとがっかりしたらしい。
 もちろん『Life is Beautiful』のようなゴミとは比べられないほどリアルであるが。

2日
リヒャルト・ヒュルゼンベック『ビリッヒ博士の最期』(種村季弘訳・未知谷)
 著者はダダイストだそうだが、普通の小説。マーゴットというやり手の女性に魅入られた男を、戯画的に描くもの。

3日
直扱いの書店に納本と返品の引き取り。

田中聡『不安定だから強い』(晶文社)
 古武道を復活させた武術家・甲野善紀の紹介。著者はこの武術にはまったらしい。興味深くはあるが、こういうものは現実にやった方がずっとおもしろそうだ。(京)

福田和也『現代文学』(文藝春秋)
 大したタイトルだが、春樹、大江などを扱う文芸評論集。長い引用を交えて筋を紹介しつつ、その意味を説明していく、という国語の授業のごとき評論である。(京)

ロビン・ガーディナー『なぜタイタニックは沈められたのか』(内田儀訳・集英社)
 本当のタイタニックはオリンピック号で、破損したオリンピック号は、タイタニックに偽装され、わざと沈められたという与太話。(京)

宮田昇『学術論文のための著作権Q&A』(東海大学出版会)
 ネットで連載したものに手を加えた新書で、1400円もする。誰が買うのか?(京)

中島義道『怒る技術』(PHP)
 バカ。(京)

モーリス・ルヴェル『夜鳥』(田中早苗訳・創元推理文庫)
 残酷物語集と位置づけられ、探偵作家に持ち上げられている短篇群が、《赤ん坊殺しの文学》のように、実は社会派文学なのではないかという気がしてくる。男女の愛憎による凄惨劇もいくつかあるが、親子の情愛を描くものが結構ある。バカらしい展開も、風刺としてなら、むしろよく機能しそうだ。

4日
神林長平『小指の先の天使』(早川書房)
 短篇集。もともと関連のない短篇(うち三つは連作だが)が、こうしてまとめられると、何となくそれっぽく見えるのがおもしろい。次は現代刑事ものの短篇をまとめてほしい。

『ワンピース デッド・エンドの冒険』を観る。大して期待していたわけでもないがやっぱりいまいち。下手な声優(アイドルか?)を使うなよなー。だがしかし、『魔界転生』の予告編の方がすさまじかった。窪塚洋介ってとことん芝居が下手。どうしてこんなのを使うわけ? まあ女優連もひどかったし、佐藤浩市は十兵衛に合わないし。
 それにしても映画館が空いている。東映の春休み興業で、子供はたった一人で、あとは大人というのも何だかね……。

5日
アリ・スミス『ホテルワールド』
(丸洋子訳・DHC)
 墜落死した少女を起点にゆるやかにつながる連作短編集。物語そのものはおもしろいのだが、言語的な実験と言われても、翻訳でははっきりとはわからない。

町田宗鳳『山の霊力』(講談社選書メチエ)
 山をめぐる日本の信仰、思想をまとめたもの。総括的ではあるが、つまらなかった。

南條竹則『中華満喫』(新潮選書)
 蘊蓄をたくさん入れた食物のエッセイ集。小説や翻訳とは違う柔らかな文章に味わいがある。

7日
SF大賞受賞式とパーティに出席。

8日
キャサリン・ウエブ『ミラーイメージ』(
鳥見真生訳・ソニー・マガジンズ)
 14歳が書いたものとしてはすごい。翻訳なので、文章がどうなのかは分らないけど。若い子が書いたということしか、この作品がハードカバーで翻訳される根拠がない。まったく無意味である。

9日
ブライアン・ジェイクス『小さな戦士マッティメオ』
(西郷容子訳・徳間書店)
 《レッドウォール伝説》の三巻目。一巻目の続編。お子様向け。

10日
ジェーン・チャンス『指輪の力』
(井辻朱美訳・早川書房)
 権力としての指輪論。

11日
桐野夏生『リアルワールド』
(集英社)
 受験中の高三生が母親を殺したり自殺したりする話。バカみたい。(京)

枝川公一『戦時化する世界』(太陽企画出版)
 ネットの中のものを外に出す形の本。こんなものが本になるのか。(京)

ハワード・ジン『テロリズムと戦争』(田中利幸訳・大月書店)
 反戦派の歴史家へのインタビュー。「倫理の回復を」と訴える。金や権力に倫理が勝てるか? 絶望的である。(京)

シアトルタイムズ記者グループ『イチローリポート』(夏目大訳・イースト・プレス)
 イチロー記事集。二〇〇一年のシーズン終了から昨年末までの記事を集めたもの。こんなものも本になるのか。(京)

羅英均(ナ・ヨンギュン)『日帝時代、わが家は』(小川昌代訳・みすず書房)
 韓国の英文学者の家族史。日本で高等教育を受け、社会主義者となって抗日運動にも参加した父や、日本の美術学校を出て画家として活躍した叔母の話など。(京)

ダナ・R・ガバッチア『アメリカ食文化』(伊藤茂訳・青土社)
 食文化を通じて、合衆国的心性を解析する。いまひとつおもしろくない。(京)

13日
中村融編『不死鳥の剣』
(河出文庫)
 ヒロイックファンタジー短篇集。これはおもしろい。

21日
小山内美江子『「ボス」と慕われた教師』
(岩波書店 )
 カンボジアに小学校を作るためのNGOに参加していた元教師の追悼著作。パス。(京)

クリス・ヘッジズ『戦争の甘い誘惑』(河出書房新社)
 長年にわたって戦争とテロを取材してきた記者による戦争=麻薬論。いまいち。(京)

池澤夏樹『言葉の流星群』(角川書店)
 宮澤賢治の詩や作品をめぐる評論。パス。(京)

諸田玲子『犬吉』(文藝春秋)
 犬公方の時代の野犬集積所を舞台にしたラヴ・ロマンス。(京)

黒田杏子『布の歳時記』(白水社)
 布・着物をめぐる句や布や着物の記憶を呼び覚ます句を挙げて、身辺のことなどを語るエッセイ集。(京)

塩澤実信『古田晁伝説』(河出書房新社)
 筑摩書房を創業した出版人の評伝。何の魅力も感じられない男。金持ちの坊ちゃんの甘ったれ。鯨飲も妻を殴るのもシャイゆえだなどという考え方にはぞっとする。こんなのが筑摩書房の創業者だったのか……。(京)

26日
渋谷章さんにインタビュー。次号でいよいよ「ハガード、ハガード!」も最終回なので。珍本の書影もあり。

27日
フィルムセンターで春休みの子供向け上映があり、昔のアニメをやるので、次男に頼んでついてきてもらい(大人一人では入れない、子供の付添としてなら入れる)観に行った。「くもとちゅうりっぷ」というたいへんに有名な作品のほか、短いものをいくつか。大藤信郎の「馬具田城(ばぐだじょう)の盗賊」、山本早苗「つぼ」など。「つぼ」はアラビアンナイトのつぼの魔神の話。馬具田城もアラビアっぽいネーミングだが、日本の昔話(物語そのものは折衷的な感じ)。
 アニメと言えば、『千と千尋』がアカデミー賞を獲得したが、最近新設された長篇アニメ賞とかいうものなのだそうで、ならば貰って当然である。対抗馬が『リロ&スティッチ』だったわけだし、だいいち長篇アニメなんて、そんなに作られてはいないではないか。

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『魔法がいっぱい』(田中薫子・野口絵美訳・徳間書店)
 《クレストマンシー》の短篇集。

柏葉幸子『ブレーメンバス』(講談社)
 短篇集。家庭問題テーマのファンタジイ集。子供向けじゃなく緻密に書けば浅田次郎『鉄道員』になる、などと考える。

28日
ジョン・ベレアーズ『オペラ座の幽霊』
(三辺律子訳・アーティスト・ハウス)
 《ルイスと魔法使い協会》。閉ざされていたオペラハウスのピアノの中の楽譜が恐怖を呼ぶ。主人公は何度でも同じ過ちを繰り返す。その点は確かに〈ハリポタの原点〉と言えるかも? 

バリ『小さな白い鳥』(鈴木重敏訳・パロル舎)
 子供をめぐる物語。ピーター・パンの原話を含む。エッセイめいた諧謔的な語り口がすべて。

29日
アデラ・ポペスク『私たちの間に』
(住谷春也訳・未知谷)
 ルーマニアの女性詩人の詩集。

ドイル&マクドナルド『サークル・オブ・マジック』(武者圭子訳・小学館)
 第二巻。魔術的な像を手に入れたために戦いに巻き込まれる話と、滞在した城での陰謀の話。薄い。

松井昌雄『秀さんへ。』(文藝春秋)
 松井秀喜の両親が息子に送ったファクス集。
 松井の父親は新興宗教の分家教祖の家に養子入りした人で、松井も教会で新年を迎えたりしていたのだ……。(京)

30日
フランソワ=グザヴィエ・ヴェルシャヴ『フランサフリック』(
大野英士・高橋武智訳・緑風出版)
 アフリカの軍事政権の数々と代々結びついてきたフランス政府・大統領を弾劾する本。合衆国のピノチェトによるアジェンデ大統領暗殺支援に当るものを、かつての宗主国としてフランスはアフリカ諸国で大規模に展開している。さらにルワンダの住民虐殺(数十万と言われる)への支援、アフリカの飢餓民を救おうとする法律の否決など、暗澹とした内容。すべてが利権(資源ビジネスばかりでなく開発援助金の横流しなども含めて)をめぐっている。(京)

サーダー&デーヴィス『反米の理由』(浜田徹訳・ネコ・パブリッシング)
 原題は Why Do People Hate America?。テレビ番組やハリウッド映画のイメージで世界を捉えているせい、つまり世界に対してあまりにも無知で自己中心的だから、そしてそれは建国以来変わっていない性格である。また、世界のステロタイプな捉え方は、ヨーロッパから持ち越されている、と言っている。合衆国のテレビの紹介がおもしろい。
 それにしてもすさまじい翻訳である。意味不明のセンテンスが続出、日本語になっていない。原書は眼にしていないが、原著者は、揶揄をこめた反語表現(皮肉)を多用していると思われる。この翻訳者はそれを理解していないので、文脈が通らなくなっているうえに、ユーモアがまったく消えている。いわゆる翻訳ソフトから出したそのままんなんじゃないかという感じ。「イギリスのすばらしい古い魚とチップス」! こんな単純な文章までもがとんでもない日本語になっていて、爆笑ネタにはなるが、はなはだ読みにくく、まったく残念である。(京)

宮下章『海苔』(法政大学出版局)
 《ものと人間の文化史111》。海苔の通史。海苔はまったくもってすばらしい食物である。(京)

辻井喬『桃幻記』(集英社)
 文革に翻弄された人々などを描く短篇集。(京)

乾口達司『花田清輝論』(柳原出版)
 コミュニスト花田の再評価。対立するものをそのままに一つの中で表現するというような思想を称える。ひとまわり若い著者の政治的スタンスにやや驚いた。politics ということを考えた場合には、あらゆる文学的言説に対する不信しかわかない私などとはずいぶん違う。(京)

【今月の雑感】 三月の初めから読んでいる読みかけの本がたくさんある。たぶんもう少ししたら、書けるだろうと思うので、今月は東京新聞の本ばかりだが、御容赦。
 三月半ば、次男が中学の卒業式を終えて春休みに入ったので、二人で二泊三日の京都・奈良旅行に出かけた。中三の男の子が母親と旅行に行くなんて信じられない、という声も聞こえたが、そんなものだろうか。鉄道趣味のある次男とでなければまず行くまいと思われる「梅小路蒸気機関車館」などというところを訪れ、立派な(今も動く)ターンテーブルに感動し、京都ではない場所に行った気分になった。