《明石町便り2 2001/10/13》
◇紅・白・黄の曼珠沙華の花が露台を彩ったのも束の間、夏の名残の気分にケヂメをつける暇もなく、呀といふ間に秋の気配が立ち、お隣の聖路加病院の庭では薄の穂や萩の花が風に靡いてゐます。10月も10日を過ぎた今、私の露台でこれから花を咲かせてくれるのは、鞍馬ホトトギスと血のやうな暗紅色の菊と縮緬咲きのネリネ(南アフリカ産の彼岸花科)くらゐで、何だか心細くなってまゐります。秋になると、毎年、きまったやうに猫が飼ひたくなるのは寂しいからでせうね。
◇ところで、曼珠沙華は岡山の山尾さんの花壇でも無事開花した由、差し上げた私と致しましては一安心です。山尾さんのお宅の前には、2羽の白鳥や種々の水鳥の想ふ池があるとのこと。流石に大山椒魚やヌートリア(岡山県には巨大鼠が生棲してゐるんですよ)は泳いではゐないやうですが、写真を拝見すると、素晴しい住環境で何とも羨ましい限りです。山尾さんのお話では、この白鳥が家鴨をつつき廻したり、犬と喧嘩したり、ともかく気が強いのださうで、白鳥は優雅な鳥だと思ひ込んでゐた私は、今更ながら己の単純さに呆れてをります。でも、吉祥寺の井の頭自然文化圏にゐる黒島はとても優雅でしたよ。写真を御覧に入れます。ついでに深大寺植物園で見かけた野良猫君も御覧下さい。この猫は逃げたり媚びたりせず、とても悠然としてゐました。貧民たる私には豪華な旅行など思ひも寄らぬこと、そこで、東京近郊の植物園とか動物園やらに出かけて憂さを晴らすのであります。混雑を避けて平日に出かけます。独りではツマラナイので、誰方かに同行をお願ひするのですが、平日の昼日中に動物園などに御一緒して下さる方は少なうございますよ。今年は身辺に余裕が無くて、未だ何処へも行つてをりません。横浜動物園のオカピを見に行きたいと思びながら、中々果たせません。ゼブラとジラフの間の子のやうなこの草食獣に、私は十代の頃から関心を抱いてゐたのですよ。
◆植物と申せば、こんな事がございました。9月に近況を載せて頂いて暫く経った頃に、山尾悠子さんからお便りを頂戴しましたので、ちよつと紹介致しませう。国書観光会の礒崎偏執長と電話で会話中、偏執長が急に「須永さんといい、アナタといい、植物なんか育てている暇に原稿を書けばいいのに!」とブツクサ言ひ出したので、「何でまた」と不審に思はれた由、後日このホームページのワタクシメの近況を御覧になって、「あらまあ、このことだったの」と得心なさったさうです。千里眼の偏執長が、私の〈近況〉を逸早くチェックして、山尾さんに厭味を宣うたといふ次第であります。あな、恐ろしや! 時に偏執長は植物には何の関心も無いさうです。それにしては、《書物の王国》に『植物』の巻を立てる事を、よく承知してくれたものだと、感謝半ば、不審半ばであります。
◆3年前に逝かれた郡司正勝先生の晩年の見事な御仕事を何とか一冊に纏めたいと願ってをりましたが、この夏に漸く編集を終える事が出来、今月末に刊行の運びとなりました。歌舞伎や民俗芸能に関心をお持ちの方には是非お読み頂きたく、爰に紹介致します。
『芸能の足跡』郡司正勝遺稿集 柏書房 四六判450頁余 3800円
カルチャー講座のお仕事が近づき、その準備も始めてをります。お気が向かれましたら、お出かけ下さると嬉しく存じます。この近況に対して、罵言・言ひがかり・御質問などがございましたら、御遠慮なくお寄せ下さいますやう。また、中古パソコンおよび富士通の親指シフト・ワープロも引き続き探してをりますので、御不要の方がいらつしやいましたら、是非お譲り下さい。それでは、また。