《明石町便り16 2006/1/16》
★年末年始
本年もよろしくお願ひ致します。
住居のある集合住宅の改修工事も舊臘20日過ぎに終了しました。寒冷紗のやうな布の覆ひも取り除かれて鬱陶しさからは解放されましたが、例年に無い寒さが續き、とても露台には出られないので、植物の栽培どころでは無く、再開は春まで待たねばならぬやうです。
暮には吉村明彦さんのお宅を拝借して、恒例の倶楽部トランシルヴァニアの忘年會を開催、以前は私の所に毎月集まつて頂いたのですが、【江戸の伝奇小説】に取りかゝつた頃から部屋の片づけが疎かになり、そのうち酷い五十肩に罹つたりしたものですから、歳末に一度、吉村さんのお手を煩はせる事になつてしまひました。礒崎純一さん、小川功さん、南條竹則さん、服部正さん、東雅夫さんの全員が出席、吉村さんのお心盡しを受けて樂しき一夕を過ごす事が出來ました。南條さんとは一年ぶりでせうか。私は最近頓に酒に弱くなつてゐるので、氣をつけて焼酎しか呑まなかつたのですが、自制が功を奏して酔ひを翌日に殘さずに濟みました。
お正月は元旦に石黒紀夫さんが御節の重詰め(澁谷の懐石料理屋・青山製)を届けて下さつたので、三が日はお雜煮を拵へたほかは、この御節で凌ぎました。以前は誰方を招いて宴會など催したのですが、五十肩を患つてから一人で過ごす事が多くなりました。
正月の間、翻譯物の小説を纏めて讀みました。ポピー・Z・ブライトの『絢爛たる屍』(文春文庫)はgayの殺人鬼のお話。ヴァンパイア物の『ロスト・ソウルズ』が素敵だつたので大いに期待して讀み始めたのですが、予測を超える血みどろの展開に隨いてゆけず、酸鼻を極める描写は飛ばして何とか讀了。NewOrleansの性風俗の大概と「rice queen=細身の東洋人を好むgay」なる辭を知り得たのが、まあ収穫ですね。
〈ノンフィクションノヴェル〉と謳つたダリン・ストラウスの『運命の双子』(角川書店)はまあまあの出來、シャム(タイ)出身の有名な結合雙生兒の生涯を追つたものです。W・J・パーマーの『文豪ディケンズと倒錯の館』(The Detective and Mr.Dickens, 新潮文庫)はディケンズと同時代の作家ウィルキー・コリンズの一人称といふのが味噌で、相應に面白かった……。
堪能したのはデヴィッド・マドセンの『グノーシスの薔薇』(MEMORIES OF A GNOSTIC DWARF, 角川書店)ですね。メディチ家出身の教皇レオ十世に仕へた小人の回想録といふ體裁、男色・フリークス・異端審問などの蠱惑的なモティーフが緊密に絡み合つてゐて、一気に讀んでしまひました。フリークスを集めてグノーシスの「秘儀」を授ける貴族の娘とか、狂信的な異端審問官とか、瞠目の人物が續々と登場しますが、脇役ながらラファエロやレオナルドの用ひ方にも感心させられました。「訳者あとがき」によれば、邦譯題は擔當編集者たる津々見潤子さんの發案に成る由、津々見さんにはアンソロジー『血と薔薇の誘う夜に』の折にお世話になつた事があります。また佳い海外小説を紹介して下さいね。
★鏡花本の世界
黙つて遣り過ごさうかと思つてゐたのですが、あちこちで取沙汰され始めたので、此處でも告知致します。私、TVに出て喋ります(實際は録畫ですから「喋りました」)。
昨秋某日、NHK【新日曜美術館】のディレクター柿沼裕朋さんから「鏡花本の特集をしたいので相談に乘つてくれないか」との仰せ越しがあり、素直に文言通りに受け取つて應じてゐたのですが、いろいろあつて、結局「他に人が見つからないので、鏡花の文學に就いて喋つて欲しい」と押し切られ、拙宅で録画と相なつた次第であります。狭い部屋に柿沼さんとカメラマンと照明さん(この方、素敵でした!)が入つて、さあ大變。カルチャー講座で喋るのとは違ひ、メモとか頻繁に見る譯にもまゐらず、普段は穏和な柿沼さんも打つて變つた嚴しさにて、往生致しましたよ。自分では見たくないですねえ。
1月22日 午前9時・午後8時
NHK教育TV【夢幻の美――鏡花本の世界】
御覧下さる方は、どうか、お心寛やかに。
2月5日には到頭還暦を迎へます。全く自覺がなく、我ながら呆れてをります。今年もまた赤坂desperaにて渡邉一考さんとの合同誕生會が催される豫定です。經營不振のdespera應援の一助ともなりますので、お氣が向かれましたらお出かけ下さいますやう。
それでは、また近いうちに。