《明石町便り18 續々 2007/3/20》
★新しき友人
若い頃には50代60代の自分の姿など想像しにくかつたのですが、いざ還暦を迎へても實感の如きは稀薄にて、氣分は廿歳(はたち)の頃とあまり變らず、熟年(?)の自覺は全くありませんね。たゞ身體は確かに衰へてゐるといふ實感があり、五十肩が完治したと思つたら、今度は膝や腰の不調に襲はれ、左膝の痛みが治まると右の腰部に違和感を覺える――この繰り返しです。醫師の診断は「一種の職業病」とのこと、痛むからと申して大事を取るのは不可で、歩くのが最も効果的の由であります。歩くには植物園や動物園や展覽會に行くのが一番ですが、さあ出かけようと意氣込んでも、私の場合、一人では氣が滅入るので、平日に外出可能な連れの確保が急務(?)となるのですが、幸いな事に昨年から格好の同行者に惠まれました。
一昨年末、森野薫子さんの御紹介でBL小説作家の高畑吉男さんとお友達になつたのです。最初「紹介して欲しいと仰る若い人がゐるんだけど」と言はれた時、實は再た女の方だらうと思つて氣にも留めず「そのうちに……」などと答へてゐたのですが、何度目かに薫子さんが「男の方ですよ」とこちらの思ひ違ひを正したうへ、唆すかのやうに「背が高くて爽やか系」と附け加へたものですから、「えつ、さうなの」と忽ち御機嫌うるはしき態(てい)、かうなると話しは速く運びます。早速、薫子さんに連絡を取つていたゞき、お目にかゝりました。薫子さんの仰つた通り、見上げるばかりの長身〔185cm、TOKIOの長瀬クンと同体型とか〕、外見は今風の若者なれど、お行儀がよろしいので休心、お育ちが偲ばれます。以後、月に二三度お目にかゝるやうになつた次第であります。でも、親子ほども歳が離れてゐるのですよ。
BL作家といへば、まづ〈腐女子〉の方々と思つて間違ひはないので、高畑さんのやうに男子の身にてこれに勤(いそ)しむ方は御苦勞も多いやうです。書き手も読み手もほゞ女性といふ世界ですから、男性が書いてゐると氣取(けど)られてはならない、つまり正體を裹(つゝ)まねばならない。そんなTVドラマがありましたね、釈由美子が嫌ひなので見ませんが、確か『秘密の花園』。高畑さんも一度正體が露(あら)はれて、その當時のペンネームでは書けないのだとか、今は別の筆名を使つてゐるさうです〔本名を含めて四つくらゐ使ひ分けてゐる模樣〕。抑(そもそ)もは代々木の專門學校のノベルス講座にて講師の津原泰水さんから小説の手ほどきを受けられた由、津原さんには作品を見せるのに、私には見せてくれません。左樣な譯で、創作の苦心談などは伺ふものゝ、肝心の著作は一篇も讀んでゐないのですよ。
高畑さんは内外の香料にたいそう精しく、そのせゐか植物や動物にも關心をお持ちなので、まづ此の點で話が彈み、植物園や動物園への同行をお願ひ致すやうになりました。弓道も嗜むとのこと、一度〈道着姿〉を拜見したいものであります。長身ゆゑ、袴なども嘸(さぞ)お似合ひのことでせう。また、私の奬める詩歌小説なども先入觀に囚はれる事なくお讀みになります。今どき和泉式部の歌や、圓地文子や岡本かの子の小説などを面白がつて讀む若者は少なうございますからね。
★お出かけ、あちこち――シネマ編
還暦を迎へたからと申して、然(さ)していゝ事もございませんが、映畫が千圓で見られるやうになつたのはありがたいですね。去年は、『ブロークバックマウンテン』と『プルートで朝食を』を高畑さんと、『カポーティ』を吉村明彦さんと一緒に觀ました。
『ブロークバックマウンテン』は中國人の監督作品といふことで前評判の高い作品でしたが、ちよつと長すぎる。原作の小説は短篇ですから、種々入れ事がある譯で、水増しの觀があるのは否めません。主役の二人〔美形ぢやないので冷靜に観られた〕はよく演つてますが、それよりも夫々(それぞれ)の奥さん役の女優二人の美貌・演技の方が強く印象に殘つてゐます。これは澁谷シネマライズの1囘目上映を觀たのですが、平日の午前中なのに相當の入り、若い女性と高齡の夫婦者が多かつたですね。男同士でこの手の映畫を觀に行くと、やはり好奇の眼差に曝されます。切符賣場のオネエサンなんか、遠慮も何もあつたものではなく、薄笑ひを浮かべてましたよ。(4月4日)
ニール・ジョーダンがIRAのテロルにホモセクシュアリティを絡めて描くのは傑作『クライング・ゲーム』に次いで二度目ですが、切なさは前作に及ばぬものゝ、『プルートで朝食』には諧謔(ユーモア)と優しさが認められて、佳い映畫だと思ひました。隨所に插入される70年代ポップスに想ひを搖さぶられたり……。主役のキリアン・マーフィーは美形とは申せませんが、振られても裏切られても踏まれても決して挫(め)げない健気なる孤兒(みなしご)のキトゥンを好演、後日私は「かの星に朝まで着けよと祈る終幕」といふ片歌を詠みました。屆かぬ願ひではありませうが、ジョーダン監督には女裝者ではないゲイを主人公に据ゑた作品も撮つて貰ひたいものであります。因みに、一番好きなジョーダンの映畫は『狼の血族』です。(6月29日、シネスイッチ銀座)
キリアン・マーフィー素顔
『カポーティ』は御存じのやうに2005年度アカデミー主演男優賞を受賞したフィリップ・シーモア・ホフマンが自ら製作した作品であります。私などは『リプリー』の彼くらゐしか思ひ出せないのですが、それにしても良く似せてましたねぇ。トゥルーマン・カポーティは目立ちたがり屋でしたから映像なども澤山殘つてゐる譯で、そんなものを見て研究したのでせうか、オネエ風の喋り方なんかもそつくりでした。カポーティはスキャンダラスな逸話に事缺かない作家ですから、尋常ならば「あれ」も「これ」も採り入れたくなるところでせうが、この映畫は左樣なものには全く色目を使はず、『冷血』一本で押し通してゐます。奇抜な手法の援用なども無くて實に見易かつたので、聊か拍子抜けしたくらゐでありますが、後日、服部正さんの當を得た作品評を伺ふに及んで、なるほど佳い映畫かも知れないと思ひ至りました。(11月15日、日比谷シャンテシネ)
1囘目を觀たので、有樂町高架下の定食屋にて晝食、久し振りに鰺フライといふものを食しました。このあと、村上佳子さんと合流して3人で曽根睦子さんの個展が催されてゐる月光莊に立ち寄り、暫し歡談に刻を過しました。
今年になつてからは、高畑さんと『王の男』を觀に行きました。韓國映畫、特に現代物は種々の情報を勘案して敬遠してをりましたが、これは時代物なので觀る氣になつたのです。美形の大道藝人が國王の寵を得る話だと小耳に挾んでミーハー氣質が刺激されたのですから、動機は相變らず不純であります。朝鮮王朝に關する知識もあまり持ち合せてゐないので、王朝史上最惡の暴君と言はれる燕山君〔第十代國王、16世紀初頭〕の描き方が當を得たものかどうか判斷は出來ませんが、始まるや忽ち引き込まれ、終幕近くまで飽きずに觀る事を得ました。女形〔なのでせうね〕役のイ・ジュンギは噂に違(たが)はぬ美しさ、相方のカム・ウソンとの息もよく合つてましたね。韓国の宮殿は中國のやうに仕切は開閉式だと思ひ込んでゐましたが、日本の襖とよく似た引戸だつたので、ちよつと意外の感を覺えました。裝飾的な繪が描かれてゐるのも襖と同じ、その繪がまた独特で、繪柄を確かめるためにもう一度觀たいくらゐです。燕山君は『宮廷女官 チャングムの誓い』に登場する王樣のお兄さんだとか、襖繪を確かめる術(すべ)はありさうですが、あのドラマは見たくないですねぇ。(1月22日、シネスイッチ銀座)
★お出かけ、あちこち――展覽會編
《藤田嗣治展》4月25日、竹橋・國立近代美術館。吉村さん、薫子さん、曽利牧子さん〔現在は宇野邦一夫人〕。お目當は猫の繪だつたのに、期待に添ふもの見當らず。
《エコール・ド・シモン展》5月8日夕、銀座・span art gallery. 高畑さん。オープニングなので皆さんお揃ひ、シモンさんも上機嫌、菅原多喜夫さんもホストとして大活躍。誰方が抜いたのか、金子國義さん差し入れのシャンパンの栓があらぬ方に飛び跳ね、煽りを食らつた学研の増田秀光さんがずぶ濡れに。私は隣にゐたのですが、無事でした。
《プラド美術館展》5月11日、上野・東京都美術館。薫子さん、曽利さん、高畑さん。雨天なれど、かなりの混雜。ハプスブルク家以來の蒐集品なのでせうね、佳いものが一杯、お目當のベラスケスやティツィアーノやブリュ-ゲルを堪能、流石に〈お手入れ〉が行き屆いてゐて光り輝くばかり。廣小路の風月堂にて暫しお喋り。曽利さんは女伊達とも申すべく、俗に謂ふ〈竹を割つたやうな〉御性格、お話も面白くて、惚れ惚れ致します。
《伊藤彦造追悼展》7月20日、根津・弥生美術館。高畑さん。彦造の插繪原畫は既に何度も見てゐるのに、作品展が催されると見に行かずにはゐられませんね。そのあと雨の中、徒歩にて不忍池まで下りましたが、お目當の蓮の花はチラホラ程度、でも荷葉が池を覆ひ盡す樣は絶景でしたね。辨天島でビールでも飲まうと思つたのに、生憎のお天気で露店は全てお休みでした。この日は伊勢丹にて金子國義さんの個展《Cannes》オープニングがあるので、廣小路の風月堂でお茶を喫んだあと新宿へ。流石は伊勢丹、お酒も結構なるものが何種類も用意され、オードブルの類も豐冨、綺麗に並べられた眞中に見事な大鉢が鎭座ましまし、はてどんな御馳走が盛られるのかと期待してゐたら、何と櫻桃(さくらんぼ)の種入れでした。金子さんが御自宅から持參された由、御蒐集の逸品なのでせう。
上野不忍池(高畑さん撮影)
《エミール・ガレとドーム兄弟展》8月4日、澁谷・bunka-mura ギャラリー。高畑さん。露西亞エルミタージュ美術館の収藏品ゆゑ、初めて觀るもの多し。ドーム兄弟の小さな器に感心。まだ日が高いので新宿御苑へ。平日の午下がりに野外で飲むビールは悖徳の味はひにて格別であります。
《若冲と江戸繪畫展》8月9日、上野・國立博物館平成館。薫子さん、宇野牧子さん、高畑さん。近年の若冲人気には聊か戸惑ひを覺えます。一過性に終らねばいゝのですが……。名高いジョニー・プライスのコレクション。若冲も結構でしたが、酒井抱一や鈴木其水など江戸琳派の展示が充實してゐて、抱一贔屓の私は大滿足。それから屏風の展示法に感心、江戸の燈に近い照明が當てられてゐたのです。雨が上がつたので不忍池に下りました。池面を覆ふ荷葉が折からの風に一齊に搖らぐさまは壯觀、暫し見蕩れましたよ。そのあと、廣小路の風月堂へ。土地柄でせうか、此處は銀座風月堂などとは趣が異なり、生ビールも飲めるのです。お仕事が控へてゐる薫子さんには相濟まぬ事乍ら、牧子さんと高畑さんと私は早速中ジョッキを注文、後ろめたき酩酊感に浸(ひた)つたのであります。
佛蘭西文學者の宇野邦一(くにいち)さんが8月末から向う1年間佛蘭西に遊學〔大學からの御出張?〕なさる由、牧子さんも晴れて宇野姓を名乘つて同道される事になり、この日は宵から歡送會だつたのですが、私は失禮して、後日〔8月24日〕柿沼裕朋さん・飯田克比呂さん・高畑さんなどと御一緒にさゝやかなる送別の宴を催しました。
《化け物の文化誌展/南方熊楠展》10月19日、上野・國立科學博物館。服部正さん。この日のお目當は、實は千駄木の觀潮樓址に建つ鴎外〔正字が出ない!〕記念室の見學にて、これは鴎外愛讀者たる二人の豫てからの懸案でありました。あの鴎外を記念する建物としては聊か地味に過ぎると不滿を覺えたものゝ、他に見學者もなく、遺品の書物・文房具や原稿・書簡などをゆるりと心おきなく見られたのが何より。さるにても鴎外の原稿の美しさと申したら、言葉を失ひますね。厭味の無い清々しいペン文字の筆跡は匂ひたつばかりの美しさで、心が洗はれるやうでした。庭には戰災や火災にも枯れずに生き殘つた大銀杏があります。上野の科博で江戸出來の河童や天狗の木之伊〔ミイラ。勿論贋物〕を展示中との情報を得てゐたので、團子坂から谷中に出て上野公園へ。
着いてみると科博のメインは埃及(エジプト)の木之伊展で《化け物》の方は常設展扱ひ、それのみか《熊楠展》も催されてをり、この二つの展示がメイン展料金の半額以下で觀られたのであります。江戸出來の木之伊は「まあ、こんなものだらう」といふ代物、むしろ書籍の展示が充実してましたね。妖怪繪巻や怪談版本も良本が揃つてゐましたが、とりわけ素晴らしかつたのは、肥前の殿樣松浦侯が作らせたといふプリニウス『博物誌』の譯本〔豪華な装幀の手書き本〕ですね。《熊楠展》の方は、境涯に沿うた適切かつ見易い展示、無料のパンフレットも12頁に亙る立派なもの。倫敦時代の抜書帳や手描き菌類圖譜など、見てゐて飽きませんでした。昔の人はよく書きにけり、嗚呼。
熊楠・熊野産茸の彩色圖
《伴大納言繪巻展》10月28日、丸の内・出光美術館。牧子さん、薫子さん。牧子さんが一時歸國なさつたので、薫子さんと誘ひ合せて午後から出かけましたが、土曜日ゆゑかなりの混雜。この繪巻を觀るのは二度目ですが、やはり傑作ですね。銀座に出て並木通りの松崎煎餅の2階へ。此處では、いつも煎茶と和菓子を頂きます。夕刻、お店に出る薫子さんと別れたあと、まだ昏れないので牧子さんと松屋の屋上に上がり、缶珈琲を飲みながら暫し談笑、8月までお目にかゝれないので別れを惜しみました。
★お出かけ、あちこち――動植物園編
《上野動物園》4月21日、高畑さん。此處に來たのは4年ぶり、正門を入つて右に行くと禽舎がずらりと並んでゐるのは昔の儘、私たちを歡迎するかのやうに孔雀が突然奇聲を發して尾羽を擴げたので、「おゝ」とこちらも感歎の聲を上げてしまひました。猛禽類やパンダや虎を見たあと、ペンギン池の畔に出て晝食。この日は修學旅行生が多く、詰襟姿の高校生の群の中に飛び抜けて爽やかな風貌の子がゐたので目で追つてゐたら、高畑さんもやつぱりその子を見てゐました〔衆目の一致?〕。ラマや北極熊なども見て、イソップ橋を渡り不忍池に面した西園へ。話題の旭山動物園に刺激されたのか、上野でも展示に工夫を凝らし始めた模樣、カナダ山嵐などは高い梢の上に凝(ぢつ)としてゐるので、どう見ても鳥の巣、表示説明を讀まなければ見過してしまふでせうね。此處では小人河馬・犀・ジラフ・オカピなどが見ものですが、このたび初めて嘴廣鸛〔ハシビロコフ〕に出會ひました。忙しなく動き囘るフラミンゴの群の近くに佇んでゐて微動だにせず宛(さなが)ら哲學者の風貌、羽毛も霧色とも申すべき素敵な色であります。
最後に、4年前は時間切れで見られなかつた兩生爬蟲類館へ。水族館と稱してゐた頃には何度も見てゐるのですが、新築後は初めての入館。以前との違ひは、熱帶植物が澤山植ゑ込まれてゐる事で、まるで温室のやう。それから魚類や貝類が見當らない……植物を導入したせゐで展示個體の數が著しく減少したのでは? 海龜もゐない、アナコンダもゐない! 大蛇も種類が少ないぞ! 不滿は覺えたものゝ、まあ樂しく見て廻りました。高畑さんのお奬めで、折から東照宮にて開催中の牡丹展も觀ました。高畑さんは以前、公園内の五條天神の弓道場に通つてをられた由、上野通なのです。このあと銀座に出て、ミキモトホールで開催中のルシアン・クレルグの寫眞展《ピカソ、コクトー、ダリ――3人の芸術家》を鑑賞、これは無料。
眞孔雀
カナダ山嵐
嘴廣鵠
網目錦蛇
上野東照宮牡丹
《新宿御苑》5月19日、高畑さん。朴の花が咲いてゐる筈だといふ高畑情報に誤りはなく、巨木が澤山の花をつけ、芳香を放つてゐました。温室ではカカオが實り、大鬼蓮や翡翠葛(ひすゐかづら)の花も見頃、庭園では薔薇もちらほら、池では大きな鼈(スッポン)にも出逢へて大滿足。
朴
翡翠葛
午後は神保町へ出て、金子國義さんのショップ(?)へ。事前に連絡しておいたので、佐藤周さんが待つてゐて下さいました。金子さんの作品・畫集・繪葉書などのほか、御鍾愛の書籍やポートレート(御贔屓の俳優・女優・アーティストなど)が惜しげもなく並べられてゐるので、盗難に遭ひはせぬかと餘計な心配も。このあと、ミロンガに寄つて珈琲で一服、聽いたことのない男聲の『ポエマ』がかゝつたので暫し耳を傾ける。この曲はイムペリオ・アルヘンティーナやぺセンティ樂團や淡谷のり子の盤を愛聽してをりますが、男性が歌つてゐるのは初めて聽きました。歸りにお店の方に聞かうと思ひながら、高畑さんとお喋りしてゐるうちに失念、歸宅してから思ひ出し、臍を噛みましたよ。
《東京都小平藥用植物園》5月26日、高畑さん。禁制の罌粟を見る事が出來るのは、都内では此處だけなので、花期を見計らつて出かけたのですが、少々遲かつたとみえて半ばは罌粟坊主〔これから阿片を抽出するのですぞ〕となつてました。藥用植物の過半は毒草であります。此處は入園無料なんだけど、持ち出されたりしないかなぁ。畑みたいな所もありますが、大方は自然に擬へた寄せ植ゑ風で趣が觀ぜられます。大好きな天南星の仲間は花期を過ぎてゐましたが、茴香や黄蓮(わうれん)が眞盛り、佳い眼福となりました。武藏野の雜木林を殘したものか、奧の方に自然林があり、一周しましたが、何やら體がぞくぞくして薄氣味が惡い……。私は靈感など持ち合せてゐないのですが、高畑さんも「此處、變ですよ」と仰るので、やはり何か在るのかも。この一角の寫眞だけピンぼけで使ひものになりません。因みに、所在地は小平市なのですが、最寄驛〔徒歩3分〕は西武拜島線の東大和であります。
罌粟
茴香
《神代植物公園》6月2日、高畑さん。午前11時、三鷹驛にて待ち合せてバスに搖られること15分、此處を訪れるのは3度目です。高畑さんのお好きな大山蓮華と泰山木は丁度見頃でしたが、薔薇の花期とてかなりの人出。薔薇はこの園の自慢とあつて種類が甚だ多く、初めは歐州産の大輪に見惚れたものゝ、見續けるうちに飽きてしまひ、結局「原種に近いオールドローズ系の花が佳い」などと言ひ出す始末。此處の温室は都内屈指の大きさ、天井も高く、ゆつたりしてゐて、あまり息苦しさも覺えません。アリストロキア・ギガンデアといふ蔓性植物の花が最も異樣に映りました。歸途、深大寺に立ち寄り境内を一巡、有名なナンジャモンジャの木は花期を過ぎてゐて、樹だけ見ると何の變哲もないやうな……。境内・門前には花屋が何軒かあり、螢袋が欲しかつたので、山野草ばかり置いてゐる店に立ち寄つたところ、關東では餘り見かけぬ舞鶴天南星を發見、丈があるので持ち歸るのが難儀かなぁと迷つたものゝ結局購入、意外と廉(やす)うございましたよ。店主のバアサンは専門知識も豐富、〈たゞもの〉ぢやありませんね。歸りは吉祥寺行きのバスに乘車、喫茶店で暫しお喋りに刻を過し、高畑さんとは荻窪で別れました。
大山蓮華
アリストロキア・ギガンデア
《明治神宮御苑・菖蒲田》6月14日、柿沼裕朋さん、曽利牧子さん、森野薫子さん、高畑さん。菖蒲田は普段は鎖されてゐて、花菖蒲の花期にのみ一般に開放されます。中に入ると、此處が都心かと疑はれるほど緑が豐かで閑静です。相應の人出でしたが、眼路のかぎり咲き亂れる花を堪能致しました。花菖蒲は古典園藝植物の女王ですね。栽てた事もありますが、實に手のかゝる宿根草で、然も一日花〔正確には一日半で萎む〕であります。此處でも專任の方々が毎日花殻を取り除くなど、怠りなく手入れをなさつてゐる筈です。菖蒲園は初めてといふ牧子さんも薫子さんも歎聲をあげていらつしゃいました。本殿に詣ると盆栽展が開催中、西洋人の青年が熱心に寫眞を撮つてゐましたが、恐らくマニアでせうね。佳い所ですけど、烏が多いのが玉に疵ですね。
神宮御苑・菖蒲田
牧子さん&薫子さん
《井の頭自然文化園》9月5日、高畑さん。此處は武藏野市在住の稻田雅子さんの御案内で訪れて以來、お氣に入りの場所となりました。吉祥寺驛から徒歩10分くらゐ……かな? 二つに分かれて、一方は主に哺乳類を飼育、廣い放飼場に屋久鹿と鶴が一緒にゐたり、栗鼠(りす)の小道があつたり、中々ユニーク、象もゐますよ。アムール山猫の繁殖に長けてゐるらしく、これは十數頭もゐます。家猫と見間違ひさうな親しみやすい風貌、對馬山猫や西表(いりおもて)山猫に近いのかな。本土貂(ほんどてん)とか本土狐とか日本の在來種が多いですね。春に行けば櫻や海棠や花蘇枋などの花も樂しめます。井の頭公園の池に隣接するもう一方の園は水禽と水棲生物・淡水魚がメインで、掘割には石斑魚(うぐひ)が泳いでゐます。水禽は黒鳥や鴨・雁の類、鴛鴦を繁殖させて池に放つプロジェクトも進行中で、もうすぐ千羽に達するさうです。折から水棲昆蟲の特別展が開催中、田鼈(たがめ)や水蟷螂を間近に見たのは少年時代以來の事であります。高畑さんの故郷の讃岐は溜池の多い所ゆゑ、「田鼈など珍しくないでせう」と聞いたら、「高松には溜池なんてありませんよ」と鰾膠(にべ)もないお答でした。この日も、勿論午下がりのビールを頂き、醉ひざましに喫茶店で珈琲も。
アムール山猫
《新宿御苑》9月10日、菅原多喜夫さん。ネットオークションで内田善美の『草迷宮』を入手したので、この月がお誕生日の多喜夫さんに差し上げよう〔人に貸したら戻つて來ないと伺つてゐたので〕と聲をかけたら、「御苑をよく見たことがない」と仰るので、新宿門で待ち合せて入りましたが、生憎の暑熱日にて温室の中は八熱地獄も斯くやと思はれるほどの暑さ、拭ふそばから汗が噴き出し往生しました。夏に温室など入るもんぢやありませんね。要町で生ビールを飲みながら、多喜夫さんの定家論を拜聽。
《東京都小平藥用植物園/都立殿ケ谷戸庭園》9月21日、高畑さん。4箇月ぶりの再訪、この時期は〈秋の七草〉と曼珠沙華ですね。七草では女郎花と萩が見事でした。桔梗や撫子は7月〔太陰暦では秋〕から咲き出すので、お彼岸の頃にはすがれてしまふのであります。曼珠沙華は妖しの雜木林に咲いてゐましたが、このたびは何とか撮映出來ました。西武線を乘り繼いで國分寺に戻り、殿ケ谷戸庭園へ。還暦だと申しましたら、證明するものが無いにも關はらず無料で入園させてくれましたよ。此處も七草と曼珠沙華、あと鳥兜も見られました。七草は一箇所に集められてゐますが、撫子のみ急拵へに植ゑられた形跡がありありとしてゐて聊か興ざめ。葛はわらわらと這ひ廻つて元氣でしたが、花は終つてゐました。高畑さんの地元の荻窪にて降車、北口のブックオフに立ち寄りBLコミックスを買ひ込んで歸りました。
藥用植物園・曼珠沙華
《新宿御苑》12月7日、高畑さん。寒かつたですねぇ、温室はともかく庭園は寒風が吹き抜けて遊覽どころではありませんでした。早々に引き上げ、高畑さんの御案内で伊勢丹脇の紅茶專門店マリアージュフレールへ。推奬なさるだけあつて、なるほど給仕は若い男性のみ、白のお仕着せも凛々しく(?)禮義正しき擧措にて、佳い氣分にしてくれます。お茶の種類も豐富、中國や中央亞西亞や歐州の珍しいものまで揃つてゐます〔後日案内された銀座店は更に多種の品揃へでした〕。
《葛西臨海公園》2月6日、高畑さん。今年初めてのお出かけ。午前11時京葉線八丁堀驛にて待ち合せ、私の住居からは徒歩10分ほどです。暖かい日が續いたので、前々から行きたいと思つてゐた臨海水族園への同道をお願ひした次第であります。意外なほど近くて、私の運賃はたつた160圓でした。水族館は廣大なる臨海公園の中の一劃だといふ事を、到着して初めて知りました。〈水仙祭〉開催中といふので、まづは大觀覽車下の花壇へ。お馴染みの房咲水仙はやゝ盛りを過ぎてゐましたが、香りは樂しめました。お目當の水族園は有料、鮪が遊泳する大水槽は期待したほどでもなく、寧ろ澤山の小水槽の方が充實してゐます。鳥類園といふのはバードウオッチング場で、どんな鳥が見られるかはその時の運次第ですね。御近所の方達でせうね、立派な遠眼鏡を携へたお年寄りが大勢繰り出してゐました。水禽は殆ど候鳥(わたりどり)、葭切(よしきり)などもゐるやうですが、遠眼鏡の用意を怠つたので、よく判りません。大型の五位鷺を眞近に見られたのは幸運でしたね。この日は気温18度、梅も満開、気持よささうに眠る野良猫も見かけましたよ。居心地がいゝのか、此處の野良猫はみな表情が穩和です。連休頃の陽気ゆゑ、タートルネックのセーターに革ジャンといふ恰好では汗が滲むほど。私の嫌ひなディズニーランドも見えるのですが、それを差し引いても、開けた東京灣の眺望が素晴らしく、是非再訪したいと思つてをります。
水族園
紅梅
眠り猫
東京灣眺望
池畔の櫻
ダチュラ
幣辛夷