《明石町便り12 2004/10/14》
★肩関節周囲炎――後日
10箇月の御無沙汰、これは〈未更新記録〉であります。何もかも滞つてをりまして、今や四方八方に言訳が効きません。右肩はリハビリの甲斐あつて、春の終りには痛みも薄らぎ、急速に回復の兆しを見せてきたのですが、今度は左肩に違和感が……。「治つても安心出来ませんよ、もう一方の肩にきますよ」といふ御忠告を、白鳥友彦さん、また川島さんを通して横山茂雄さんから頂いた時は「まさか?」と思つたのですが、これが現実となつたのです。暑気の到来に合せるやうに左腕の付け根が痛み始め、今では手が上がらず、後ろにも廻りません。1年前の右腕と全く同じ症状です。
50肩に加へて、夏にはアレルギー症状にも襲はれました。これまで蕁麻疹の類とは無縁でしたが、数年前から夏季に限つて陽光に当ると手の甲から肱にかけてサッと湿疹が奔るやうになり〔非常に痒い〕、或はこの事と関はりがあるのかも知れません。でも、その日は酷かつたのですよ。7月4日〔日曜日。私の場合、体調異変や事故は必ず土曜日か日曜日に勃発するのです〕、朝食を済ませたあと、左肩の痛みが気になつたので、暫く止めてゐた鎮痛剤〔聖路加病院処方〕を飲み、さてPCを開けてメールの返信を打ち始めたら、掌がいやにむずむずするではありませんか。痒みに痺れが加はつたやうに覚えて、掌を見ると左右共に真赤! 驚愕(びつくり)して手を洗つたのですが、その途端、甲に湿疹が奔り出し、見る間に十指がむくむくと膨れ始め、同時に眉・唇・耳など突端部(末端?)にも痒み・痺れが出始めました。何やら動悸も激しくなつたやうな気がしたので、聖路加病院の救急に行くべく支度を整へてエレベーターに乗つたのですが、今度は目眩に襲はれ、何とか辿り着いた時には立つてゐられぬほどでした。15分ほど待たされ、その間に指のむくみは引きはじめ、動悸も納まりました。問診を受けても原因は判らず〔鎮痛剤服用の件を訴へるも無視される〕、「アレルギー様症状を改善する薬」を貰つて帰宅。幸い、その後は出ても手の甲が痒くなる程度ですが、何だか不安です。後日、国書の礒崎偏執長に訴へたところ、「悪業の報いでせう」と、キツーイ一言、更に重ねて「さつさと仕事をしなさい!」云々。何たる無慈悲! いや「愛の鞭」かも……。
右肩の経験から、どうやら痛みの頂点(マラソンの折り返し地点のやうな所)があつて、そこを過ぎれば次第に痛みが退き始めて徐々に回復すると推測され、8月にはその頂点に達したと思つたのですが、9月になつても痛みは退いてくれず、却つて増幅する体。重い物が持てなくなり、湯呑茶碗などを持つても不意に力が抜けて取り落としさうになります。左手が利かないので片手鍋の類が持てず、料理にも支障を来し、愈々味気なき日々となりました。ちよつと躓いても左肩に激痛が奔り、思はず悲鳴を上げてしまひます。洗顔や衣服の着脱にも支障を来し、就寝中に寝返りを打つと痛みで目が醒めます。
PCでメールを打つ程度の事は可能なのですが、ワープロ執筆に取りかゝると30分も経たぬうちに左手が麻痺して止むを得ず控へるのですが、そこで思考が中断されるため、殆ど捗りません。斯くして、世は末世末法の体と申すのに、己が頭の周りを飛び交ふ蝿も追へぬ始末であります。この更新だけでも片づけようと思ふものの、過去10箇月の事どもを打ち果(おほ)せる自信がありません。取り敢へず言訳片端ばかり聞え上げて、あとは植物や受贈本の紹介にとゞめます。この間(かん)、4月には郡司正勝先生の七回忌の墓前に参列、その後、春日井建さんや種村季弘さんの訃報に接しました。それらの事に就いては追々少しづつ書き足してゆく所存でございますので、暫しの御猶予を願ひ上げます。
★2004年露台植物撰
素心浦島草は2年前に菅原多喜夫さんから頂いたもの〔たいそうお高いものらしい〕で、今年初めて仏焔苞をつけました。天南星界のアルビノ(白子)といった趣であります。浦島草と蝮草も芋(根茎)が殖えて御覧の如く立派に咲きました。カサブランカはハイブリット百合の人気品種、春に佃島のスーパー前の露店で需めた苗がこんなに立派な花をつけてくれました〔\150といふ廉価ゆゑ、はたして蕾を持つものかどうか実は危ぶんでゐたのであります〕。海の百合の開花は2年ぶり、夕刻に芳香を放ちつゝ開花、翌日の午には萎んでしまふ一日花です。彼岸花は紅花だけが良く咲き、白花・黄花はほんの少しだけ、今年は開花が例年より早かつたですね。
◇素心浦島草◇
◇浦島草&蝮草◇
◇カサブランカ◇
◇海の百合◇
◇曼珠沙華◇
★受贈本の御紹介
相澤啓三さんの近年のお仕事ぶりには目を瞠るものがありますね。詩集『マンゴー幻想』は書肆山田・刊(4月)、前回紹介出来なかった歌集『風の仕事』の書影も御覧に入れませう。山尾悠子さん達の共訳ファンタジー『白い果実』はもう2刷の由、祝着に存じます。山尾さん曰く「幼なじみコンビの記念本」云々、山尾さんと金原瑞人さんは同級生ださうですよ。山尾さんは日本語修辞御担当の由、国書刊行会・刊(8月)。『ファウスト』は、私の友人清水言一さんの父君俊夫様の御遺稿で、言一さんが一周忌を期して刊行なさいました。ゲーテの戯曲に先行する古い人形劇の台本の邦訳、寔に貴重なお仕事と申せませう。論創社・刊(5月)。国書刊行会の『稲生物怪録絵巻集成』(杉本好伸氏・編、7月刊)は初めて紹介されるものを含め8種類の【稲生】物を収めた画期的な集成、レイアウトにも工夫が凝らされてゐます。年刊の『吸血鬼の本』も12号が無事8月に刊行されました。今号は〈日本の吸血鬼特集〉、例によつてリストも充実してゐますよ。