明石町便り

須永朝彦を偲んで

■著作撰(書影集)
■入手可能著書一覧

須永朝彦バックナンバー

1・日影丈吉
◆給仕少年の推奨献立
◆色のない絵具
◆さまよへる悪霊、或は屈託多き女
◆日影さんのこと

2・井上保&森茉莉
◆殉情は流るゝ清水のごとく
◆Anders als die Anderen
◆『マドモアゼル ルウルウ』奇談

3・泉鏡花
◆魔界の哀愁

4・堀口大學
◆堀口先生のこと

5・足穂&乱歩
◆天狗、少年ほか

6・郡司正勝
◆郡司先生の憂鬱ほか

7・菊地秀行&小泉喜美子
◆美貌の都・月影に咲く蘭の花

8・高柳重信&中村苑子
◆るんば・たんば・『水妖詞館』の頃

9・バレエ
◆アンドロギュヌスの魅惑

10・ディートリッヒ
◆蛾眉

11・内田百間
◆片づかない氣持がする

12・和歌・短歌
◆戀の歌とジェンダー

明石町便り

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《明石町便り7  2002/9/23》


★仕事の鬼?
お久しぶりでございます。中々更新できなくて申訳ありません。この暑い夏の間、《江戸の伝奇小説》にかゝりきりで、8月など殆ど外出もせず、乗物を利用したのはたつた2回、それも赤坂・青山といふ近場に地下鉄で出かけただけです。仕事の鬼と化した訣です(自分で言ふことぢやないか)が、『絵本玉藻譚』の註釈に思ひのほか手間取つてしまひました。これは三国伝来の妖狐譚で、1・2巻が中華、3巻が天竺、4・5巻が本朝といふ構成ですが、1・2巻〔中国古代、金毛九尾狐が妲己(ダッキ)といふ美女に憑依して殷王朝を滅亡に導く〕の間接的な粉本(種本)の一つに、かの有名な『封神演義』がありまして、この長篇を久しぶりに読み返した(それも講談社文庫版・光栄版・集英社版の三種)ところ、『封神演義』の粉本たる『武王伐紂平話』も見た方がいゝやうな気がして、これを探すうち、今井佐和子さんがインターネットに全文が掲示されているのを見つけてダウンロードして下さり、この中国語原文を読み解いたりしてゐるうちに、早や8月も下旬となり、脱稿に漕ぎ着けたのは9月1日でした。そんな訣でございまして、第2回配本〔第3巻・飛騨匠物語*絵本玉藻譚〕は予定の9月下旬には間に合はず、10月中旬にずれこむ事になつてしまひました。配本をお待ちの読者の皆様に、また御迷惑をかけた国書刊行会の礒崎編集長に、この場を借りてお侘び申し上げます。
この第3巻に収めた『絵本玉藻譚』は、上方の〈絵本物読本〉ゆゑ、文字通り挿絵が多く、1~2丁おきに挿入されてをりまして、総計70余図(普通の読本の2倍強)、大方見開きですから挿絵だけで150頁を費やする事となり、初回配本の第1巻に比べますと百頁余も増えて500頁を越す大冊になります。従つて価格も第1巻同様といふ訣にはまゐらぬかと思ひますが、御理解のほどを願ひ上げておきます。『玉藻譚』は活字翻刻本が無く、挿絵が全て復刻されるのは今回が初めてですし、岡田玉山の絵も中華・天竺・本朝の風俗を描き分けてゐて見事な出来ばえです。併録の『飛騨匠物語』の挿絵は30余図、絵師は名手の葛飾北斎で、これまた実に素晴らしい仕上がりであります。
次回配本〔1月〕は第5巻〔報仇奇談自来也説話*近世怪談霜夜星〕で、盗賊自来也〔実は三好家浪人尾形周馬〕が蝦蟇の妖術を会得して活躍するピカレスク風仇討物語と、『四谷怪談』と題材を同じくする柳亭種彦の怪談の2本立です。

★町田の殷賑に驚く
 《江戸の伝奇小説》の調べ物では、今井佐和子さんと大野佐惠さんがインターネットで不明文献その他いろいろと調べて下さり、大いに助かつてをります。9月の始めに一段落ついたので、お二人に御礼を申し上ぐべく、5日にお目にかゝりました。前述の如く8月は殆ど外出しなかつたので、少し遠出がしたくなり、お二人が小田急沿線にお住まひといふ事から、町田まで出かけました。90分前に家を出たのですが、60分余で到着。郊外電車は遠方の大きな町には早く着くのですね。この町には、以前に2度、国際版画美術館まで出かけてゐるのですが、町中を散策した事はありません。今回もまづは版画美術館の《フェリシアン・ロップス展》へ。ロップスの線の美しさ、シニカルなテーマには大いに感心致しましたものの、御存じの通り徹底して女性の肉体の美を追求する態の画家でありますから、正直申しまして私の好みの画題は見当らず、少々辟易した事は否めません。ロップス展を見たあと、繁華街へ。ブック・オフなんか、原宿店よりも大規模で、売場のスペースは、私がよく利用する門前仲町店の5倍はあるでせうね。3階から順に地下まで見て歩き、お目当てのボーイズ物のコミックスは探索中の神葉里世(しんば・りせ)や逢坂みやは見つかりませんでしたが、アンソロジー類などを沢山買ひこみました。私は原則としてブック・オフでは百円の本しか買ひません(本代は仕事に必要なものに殆ど費やしてしまふためです)。けつかう拾ひ物があるんですよね。実家のある足利のブック・オフの百円コーナーで国書刊行会の《ドイツ・ロマン派叢書》の新品同然の端本を6冊見つけた時には、実に得をした気分になりました(定価総額\25315→購入価格\600)。でも、ブック・オフの店員は何で四六時中叫んでるんでせうね。マニュアルに従つてるんでせうけど、うるさい事この上もない。レジのアルバイトの若い女性の中には、日本語とは思へない言葉を発するのもゐる。マニュアル通りに喋つてゐるらしいんですが、何しろ異様なイントネーション(舌足らず+棒読みのせゐか?)で、何を言つてるのか全く聞き取れませ一ん。「いらつしやいませ」はまだいゝとして、見ず知らずの店員に「今日は」と言ひかけられるのは心外で、最近はスーパーのレジでも「今日は」と言ふやうになつたので、とつても気味が悪い。
それにしても町田は賑やかですね。私の普段の行動範囲〔築地・銀座・新橋・月島・深川〕に比べると、若者の数が非常に多い〔恐怖の女子高生も一杯!〕。物価も安いし、ブック・オフとか東急ハンズとかスパイス専門店とか、築地・銀座には無いやうな店が沢山あつて便利さう。最近は都心暮しを止めて郊外に移つてもいゝと思ふやうになりましたが、引越費用の事を考へると、当分は無理かなと思ひます。薄暗くなつてきたので、私は6時頃に小田急で帰途に。大野姉さんは町田に詳しい佐和子さんの案内で古書店などの探索に赴かれた模様です。代々木上原で地下鉄千代田線に乗換え、赤坂で下車して久しぶりに〈ですぺら〉へ。コネを利用して入手したロップス展の図録は、女好きの渡邊一考さんに進呈。代りにオムレツを御馳走して頂き、この日はお酒は飲まずに早々に帰宅しました。

★10月からまた講座に出ます
夏の間、カルチャー講座はお休みを頂きましたが、10月からまた出講致します。池袋コミュニティ・カレッジ〉は前回(4-6月)お話しした禽獣変身譚の繋がりで《植物ファンタジー》を4回、〈朝日カルチャーセンター〉は新たに《歌舞伎ワンダーランド》を毎月1回づつ来年3月まで全6回〔前編・後編各3回〕、それぞれお話しする予定です。日程など掲載しておきますので、お気が向かれましたら、お出かけ下さい。朝日の講座は、いはゆる入門的なものではなく、歌舞伎の官能的・幻想的な部分すなはち「美と妖」に焦点を絞つてお話し申し上げる所存です。

★早寝早起とTV番組
最近、早寝早起の習慣(といふより症状)が愈々進行して、中々12時まで起きてゐる事が出来ません。9時頃、ちよつとTVを見ようとベッドに仰向けに寝ると(この状態で良く見えるやうに設置してある)、忽ち眠気に襲われ、気がつくと深夜1時とか2時、結局また寝てしまひます。その代り朝は早いですよ。6時頃には、もう起き出して露台の植物を眺めます。いつぞやも、田村正和が明智小五郎を演るといふので、この時は入浴その他すべて済ませて9時から見始めましたが、西田敏行のマッド・サイエンティストめく医者が登場したあたりから眠気が兆し、上野の国立博物館(本物でしたね)に明智が乗り込んだ所までは覚えてゐるんですが、気がつくと1時過ぎでした。かなり出来の悪いドラマだつたやうですから、見果(みおほ)せなかつた事に悔は無いのですが、いぎたなく寝入つてしまふ自分が腹立たしいですね。最近の地上波TVは本当に見るものがありませんね。御贔屓の『鉄腕ダッシュ!』は、夏の間は野球のナイター中継のためで殆ど休止状態。さうですねえ、『晴れたらいいね』(土曜日朝8時)はCXのキムタクこと渡辺和洋(かずひろ)アナウンサー(キムタクより素敵ですよ)が出る時は必ず見ます。あとは『福山エンジニアリング』とか『仮面ライダー龍騎』とか。さうさう東京MXテレビの『テレバイダー』は異様な番組ですね。興味半分・気色悪さ半分といふ感じで時々見てゐます。

★音楽・植物など
今年の初めにミニコンポが故障して音楽が聞けない状態が続いてゐたのですが、7月末に、明石町の区営リサイクル・ハウスの抽選で中古品〔ケンウッド製〕が当り、入手する事が出来ました。これは、区民が粗大ゴミとして出した品の中から使用に耐える物を手入れして区民に無料で提供する(1箇月間展示して希望者を募り月末に抽選)といふシステムで、食器棚・衣裳箪笥など中古とは思へぬ品が並んでゐます。2月から毎月ミニコンポに応募してきたのが、漸く7月に当つたといふ訣です。元々ゴミとして出されたものですから、説明書もリモコンもついてきません。折角貰つてきたのに、よく判らない事がいろいろあつて何だか面倒、仕事に追はれてゐたせゐもあつて、ついそのまま放置してゐましたが、一段落ついたので、過日、手先が器用でいらつしやる〈ですぺら〉の渡邊さんに出店前に寄つて頂き、配線その他お手数を煩はせ、無事聴けるやうになりました。シャンソン・タンゴ・バロック音楽などの他、自分の為に自分で編集作成した『日陰者のための歌謡曲』などといふカセットを久しぶりにかけて、日陰者の境遇も味はつてゐます。
この近況報告も1年を経て、栽培植物も大方紹介致しましたが、未だ御覧に入れてゐないものも多少ありますので、この夏に咲いたものを幾つか御覧に入れます。まづ「造化の妙」といふ辞を想起させる鷺草(サギサウ、どうして湯桶読みなんでせうね)、それからリコリス〔彼岸花〕の仲間では最も早く開花する夏水仙〔スクワミュラ〕、そして〈海の百合〉です(このフォトは、空の具合とか奇跡的に巧く撮れました)。〈海の百合〉は2年前に菅原多喜夫さんから頂いたのですが、徒らに分球を繰り返す態にて、一向に花をつけないので、聊かイライラしてゐたのですが、この夏、忽然として花茎を出し、咲いてくれました。彼岸花科で葉は水仙にそつくり、花は御覧の如く純白で、夕刻に開き翌日の昼には萎んでしまふ一夜花。咲き出す前から芳香を漂はせます。多喜夫さんのお宅では未だ一度も開花してゐない由。鷺草も多喜夫さんから分けて頂いたのですが、頒布元では全滅の由、来年は半分お返ししようと思ひます。9月5日過ぎには黄・紅・白の曼珠沙華も花茎を延ばし始め、今日あたりは黄・紅は五分咲きです。花は以前にお目にかけましたので、今回は花茎の伸び始めを御覧に入れませう。御存じの方もおありでせうが、東洋に分布する夏秋咲きの曼珠沙華の仲間は、葉の無い時期に忽然と花茎を出し、4~5日後には開花します。花梗が枯れた後、11月頃から葉を出して冬を越し、晩春に葉が枯れて休眠に入るといふサイクルです。
鷺草
鷺草

夏水仙
  夏水仙

海の百合
海の百合

曼珠沙華
花茎を出し始めた曼珠沙華

*以前ちょっと紹介致しました英国BBC制作の『ゴーメンガースト』のビデオ&DVDが9月末に徳間ジャパンから発売されるさうです。
それでは、また。秋の終り頃には何とか更新したいと思ひます。季節の変り目ゆえ、お大切にお過し下さい。        9月18日