明石町便り

須永朝彦を偲んで

■著作撰(書影集)
■入手可能著書一覧

須永朝彦バックナンバー

1・日影丈吉
◆給仕少年の推奨献立
◆色のない絵具
◆さまよへる悪霊、或は屈託多き女
◆日影さんのこと

2・井上保&森茉莉
◆殉情は流るゝ清水のごとく
◆Anders als die Anderen
◆『マドモアゼル ルウルウ』奇談

3・泉鏡花
◆魔界の哀愁

4・堀口大學
◆堀口先生のこと

5・足穂&乱歩
◆天狗、少年ほか

6・郡司正勝
◆郡司先生の憂鬱ほか

7・菊地秀行&小泉喜美子
◆美貌の都・月影に咲く蘭の花

8・高柳重信&中村苑子
◆るんば・たんば・『水妖詞館』の頃

9・バレエ
◆アンドロギュヌスの魅惑

10・ディートリッヒ
◆蛾眉

11・内田百間
◆片づかない氣持がする

12・和歌・短歌
◆戀の歌とジェンダー

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《明石町便り17  2006/3/2》


★TV『鏡花本の世界』後日
過ぐる1月22日放送のNHK教育TV【新日曜美術館★夢幻の美~鏡花本の世界】は、私の「お喋り」は兎も角も、ディレクター柿沼裕朋さんの御奮鬪の甲斐あつて、結構なる番組に仕上がつてゐたやうに思ひます。手鞠が流れる映像など、ごく短いカットながら、撮影にはたいそう苦勞なさつたらしいので、美しい仕上がりを見て胸を撫で下ろしました。
たゞ、自分が喋つてゐる部分は、やはり恥づかしくて、まともには見られませんでしたね。放送直後から、御覽下さつた方々からお電話やメールにてお褒め頂きましたが、自分の條(くだり)に就いては〈お世辭〉と受取るとして、番組全體に對する御評価に關しては、一關係者として素直に喜んでをります。柿沼さんのお話では、諸方からの反響も概ね好評の由、手前味噌ではありますが、まづは祝着と申せませうか。2月5日の誕生會の折にも、皆樣から過分のお言葉をかけて頂き、ひたすら恐れ入つたる次第であります。

★最後(?)の誕生會
その誕生會には、松山俊太郎さん、四谷シモンさん、宇野邦一さん、間村俊一さんをはじめ多くの方がお出で下さり、寔にありがたく存ぜられました。日曜日ゆゑ午後5時から10時までといふ豫定だつたのですが、遲くなつてから珍しく金子國義さんがお見えになりました。澁澤龍彦さんと種村季弘さんに由縁の深い松山・金子・シモンのお三人が揃ひ、、1970年前後を髣髴とさせる趣にて、また一頻り盛り上がり、午前零時を廻つてもまだ澤山の方が殘つてをられました。松山さんと金子さんが御一緒のフォトを御覽に入れます(森野薫子さん提供)。

 松山さんと金子さん

金子さんは相變らず若々しくいらして、お肌の色艶など、今年古稀を迎える方とは到底思はれず、還暦の私がたぢたぢするほどで、喜壽間近の松山さんもまた意氣軒昂。私もお二方のお元氣に與かりたきものと羨ましく拜した次第であります。然し、悲しい事に晝型の私は零時を過ぎると瞼が重くなり、生欠伸を噛み殺す體たらく。皆樣の興を削ぐのも不本意ゆゑ、わが電腦教授たる比呂先生や柿沼さんと御一緒にお先に失禮させて貰ひました。
松山さん係をお願ひした吉村明彦さんのお話では、松山v.s.金子の歡談は盡きる事なく、despera閉店後も終夜營業の居酒屋に場所を移して、なほ續けられたさうで、吉村さんが松山さんを送り届けて歸宅なさつた時には4時を廻つてゐた由、本當に御苦勞さまでございました。
私も相當に喋つたらしく、翌日、聲がガラガラになつてゐました。その翌日の火曜日、吉村さんが『サライ』のインタビューに見えた時もまだ變な聲で、御迷惑をかけてしまひました。『サライ』が高年齡層を読者対象にしてゐるといふ事は承知してゐましたが、インタビュー等の対象者もまた同樣なのださうであります。それにしても、還暦を迎へた途端インタビューに見えるとは、嬉しいやうな悲しいやうな……。

★最近の受贈書から
五十嵐力さんからロード・ダンセイニ研究誌「PEGANA LOST」11号を頂戴しました。この号には石野重道の詩集『彩色ある夢』より「煌めける門」「廢墟」の2篇が復刻紹介されてゐます。石野は、まあ無名と申してもいゝ詩人ですが、稻垣足穗の讀者なら御存じでせう。足穗と共に佐藤春夫に師事、彼らの処女作品集には春夫が序文を寄せてゐます。此處に復刻されてゐる2篇の詩は、足穗の初期の代表作「黄漠奇聞」と同一題材であり、その事に就いては足穗自身も觸れてはゐるのですが、これまで明確に比較論評される事は無かつたやうであります。大正12年・300部限定刊行の『彩色ある夢』はもとより稀覯本であり、後にこれを収録した『眞珠貝の詩』(1983年・中央公論事業出版)も限定200部ゆゑ、容易に見る事も叶ひません。このたびは力さんが「稻垣足穗『黄漠奇聞』と石野重道『廢墟』をめぐって」と題して詳しく檢證なさつてをり、寔に貴重な復刻と申せませう。楢崎勤の「楢」が「樽鱒」となつてゐるのは、まあ御愛敬といふ事で見逃しませう。「PEGANA LOST」の發行元は【西方猫耳教会】。詳しくは下記にお問ひ合せ下さい。pegana@mb.infoweb.ne.jp

PEGANA LOST

雑誌「彷書月刊」3月號では【アドニスの杯】と題して、中井英夫の『虚無への供物』の原型が掲載されたゲイ會員誌「アドニス」を特集してゐます。本多正一さんのお心遣ひにて私の所にも届いたものと思はれます。
その本多さんが病床の堂本正樹さんを訪ねて取られたインタビューが短いものながら圧巻ですね。「三人のあいだに」と題して、「アドニス」の寄稿者であつた三島由紀夫と中井英夫の思ひ出を語つてをられます。昨年、文春新書から出た『回想 回転扉の三島由紀夫』と併せ讀む事をお奨め致します。
他に數人が寄稿してゐます(中には、岩倉具榮を知らぬ人や、カミングアウトしてゐない作家の實名を平氣で擧げてゐる人も)が、特に讀むべきものは見當りませんね。たゞ、村上博美さんの「『アドニス』主要記事解題」は貴重なお仕事だと思ひます。

彷書月刊

  先日、国書刊行会編集長・礒崎さんがお見えの折、【ウッドハウス・コレクション】の一冊『比類なきジーヴス』を頂戴しました。讀みたいと思つてゐた本ゆゑ、ありがたかつたのですが、それにしても1年前に出た本を何故今頃下さるのかと訝つてをりましたら、譯者の森村たまきさんの御意向の由。刊行時に言傳てられてゐたのを、偏執長がつい最近思ひ出したらしい……。私も物忘れがひどくなつてをりますから、他人樣(ひとさま)の忘失をあげつらふ譯にはまゐりません。まあ、お互ひに氣をつけるやう努めませう。

比類なきジーヴス

  山田登世子さんからは『晶子とシャネル』を頂きました。この御本と『比類なき……』はこれから拜讀する豫定なので、紹介にとゞめておきます。
装釘家の間村俊一さんたちが發行なさつてゐる同人誌「たまや」の第3号が近々刊行の運びとなるさうです。「たまや」は今時稀有な活版印刷二色刷、寔に美しい雜誌であります。144頁の大冊、執筆者は加藤郁乎・高橋睦郎・佐々木幹郎・黒瀬珂瀾など30名餘、種村季弘さんや多田智満子さんの未発表原稿も掲載される由、私も「俳諧國盡」を載せていたゞきました。8日(水)に刊行記念パーティーが「ですぺら」にて開催されるさうですから、御關心のある方はdesperaの掲示板を御覽下さい。それでは、また。