明石町便り

須永朝彦を偲んで

■著作撰(書影集)
■入手可能著書一覧

須永朝彦バックナンバー

1・日影丈吉
◆給仕少年の推奨献立
◆色のない絵具
◆さまよへる悪霊、或は屈託多き女
◆日影さんのこと

2・井上保&森茉莉
◆殉情は流るゝ清水のごとく
◆Anders als die Anderen
◆『マドモアゼル ルウルウ』奇談

3・泉鏡花
◆魔界の哀愁

4・堀口大學
◆堀口先生のこと

5・足穂&乱歩
◆天狗、少年ほか

6・郡司正勝
◆郡司先生の憂鬱ほか

7・菊地秀行&小泉喜美子
◆美貌の都・月影に咲く蘭の花

8・高柳重信&中村苑子
◆るんば・たんば・『水妖詞館』の頃

9・バレエ
◆アンドロギュヌスの魅惑

10・ディートリッヒ
◆蛾眉

11・内田百間
◆片づかない氣持がする

12・和歌・短歌
◆戀の歌とジェンダー

明石町便り

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明石町便り19・續
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《明石町便り6  2002/7/26》


★蝮草・浦島草続報
2箇月も更新出来なくて、申訳ございません。いつも気には懸かつてゐるのですが、このところ、仕事に逐はれて万事に餘裕が無く、聊か味気ない日々を送つてをります。
前回、いづれ川島徳絵さんから野性の蝮草を頂ける旨を記しましたが、その機会は思ひがけず早く訪れて、5月27日、川島さんが鉢に移植した蝮草を届けて下さり、感激いたしました。蝮草は自生地によつて外観に多少の差異が現れるやうで、川島さんから頂戴した山梨産は仏焔苞の色が烏賊墨(セピア)です。菅原多喜夫さんが種苗店で見つけてきて下さつたものは薄緑色でした。共に息災で、仏焔苞は枯れ落ちましたが、葉は未だ青々としてをります。その後、宮坂桂子さん(郡司正勝先生の御長女)から、自生する浦島草を撮影した写真が何枚も届き、うつとりと見とれるうちに、その自生地に行つてみたくなりました。桂子さんの御夫君は製紙会社にお勤めで、富士市吉原に単身赴任の由、植物好きの桂子さんは折々出向かれて郊外の草木を撮影なさるやうで、今回の浦島草も吉原あたりの自生地で撮られたものでせう。その写真を御覧に供します。仕事に逐はれる私は、結局、静岡行きを諦めたのですが、このわらわらと群生する光景は夢にも出てきさうで、来年は邪が非でも見にゆかうと強く心に期してをる次第であります。

浦島草
★どこが糸葉?
翁草とか芹とか、切れ込みの深い葉つぱ、いはゆる糸葉を有する草花が好き(でも、人参・コスモス・マーガレットなどには興味なし)で、久しき以前から糸葉芍薬(イトバシャクヤク)といふものに目をつけ、折に触れて「欲しい!」と口走つてゐたらしく(これは普通の芍薬よりも高価なのです)、それを耳にされた多喜夫さんが、一昨年の秋、持つてきて下さいました。さて翌春、芽が出たのを見れば、「どこが糸葉?」といふ風情。この時は花もつけなかつたので、私は聊か邪険に扱つたりしたのですが、3年目のこの5月の末に初めて開花、葉こそ糸葉ならねども、花はちよつと珍しい美形、色も床しく黄金なす蘂も豪奢。その後は態度を一変させて丁寧にお世話してをります。白咲きの河原撫子の写真がよく撮れたので、芍薬ともども御覧にいれます。撫子は秋の七草に数へられてゐるのに6月には咲き始めます。太陰暦でも聊か早いと思ふのですが、同じく七草に入つてゐる桔梗も6月から咲き出します。撫子も桔梗も咲き終つたあと、切り戻すともう一度花をつけますよ。育ててをられる方は、お試しあれ。

芍薬 芍薬
  河原撫子 河原撫子

★えッ、何でゐるの?
西武コミュニティ講座の《変幻する禽獣たち》が6月6日に終了、8日にお別れ会を催しました。2部構成で、昼の部は禽獣に因んで上野動物園見学、夜の部は〈ですぺら〉で文字通りの〈お別れ会〉。昼の部は、2時に動物園前に集合、私の他に5人が参加しました。動物の配置は、3年前に稲田雅子さんと見学した時と殆ど同じでしたが、前回は水族館が建替中のため、爬虫類・両棲類・魚類を見る事が出来なかつたので、私個人としてはこれがお目当ての一つでした。順路に従つて、まづ雉や野鶏の類、次に御存じのパンダ、鷲などの猛禽、虎などを見て、〈夜の森〉へ。ここは文目(あやめ)も分かぬ闇の世界、ベンガル山猫や蝙蝠などの夜行性哺乳類がゐるのですが、あまりよく見えない。見当をつけて写真を撮るのですが、前回うまく撮れなかつた山猫も今回はまあ何とか撮れましたので、不気味な蝙蝠群像ともども御覧にいれませう。
当日は真夏のやうな暑さで、リャマなんかグッタリして地面に寝ころび、白熊は水の中でバチャバチャ。北海道産の羆(ヒグマ)も小さなプールに首まで漬かつてゐましたが、白熊の池と違つてまことに手狭なので、何やら温泉に漬かつてゐる風情。面白いので撮影しましたが、これは今井佐和子さん撮影のパノラマ(比較すると被写体が明らかに横に引き延ばされてますね)の方がよく撮れてゐるので、こちらを御覧にいれませう。

コウモリ コウモリ
     ベンガル山猫  ベンガル山猫
羆の暑気払い羆の暑気払い
白熊
犬ぢやありません、白熊です

 イソップ橋を渡つて不忍池に隣接したゾーンへ。エミュー(御贔屓の走鳥類)や山羊山や夜行性小型哺乳類などを見てから、大型草食獣のコーナーへ行くと、3時半を廻つてゐたせゐか、放飼場から塒(ねぐら)の方に移されてゐて、裏側(?)から見物。ジラフや河馬など一通り見て、もう出口といふ所に差しかかると、何とオカピが2匹ゐるではありませんか! 20世紀になつてからアフリカの密林で発見された、この大型草食獣は世界三大珍獣の一つに数へられてゐますが、私にとつては子供の頃にアフリカを舞台にしたハンター物のハリウッド映画の中に登場したのを見て以来、眷恋の動物なのであります。一見するとジラフと縞馬の間の子みたいですが、偶蹄目ですから牛の仲間ですね。足から腰にかけて美しい紫の縞模様があり、この模様が密林ではカモフラージュに役立ち、発見が遅れたのだらうと言はれてきました。日本に初めて渡来したのは、つい3年ほど前のこと、新規開場の横浜ズーラシアの目玉動物としてお目見えしたのですが、まさか上野にゐるとは! 今回の動物園見学企画も、出来れば横浜ズーラシアに行きたかつたのですが、交通の便などから諦めて上野に決めた経緯があるのです。眷恋の動物に突然遭遇しての感想は「えッ、何で此処にゐるの?」といふもので、我ながら情ない。写真を沢山撮つたのですが、何分金網越しなので、これといふものが撮れませんでした。近いうち、午前中に出かけて撮り直したいと思つてゐます。
オカピ オカピ

  このあと、ベンチでちよつと休憩して、さてお目当ての水族館へ行つてみると、な、な、何と「4時にて閉館」の看板が出てをり、入口には警備員の方が立ちはだかつてゐるではありませんか。休憩さへしなければ滑り込めたのに――と悔やんでも後の祭。諦めて、夜の部までの空き時間を過すべく広小路の方へ。ここで、小坂香織さんが打合せのお仕事のために中座(?)。一同は甘味喫茶〈はる乃〉で休み、アメ横をブラブラ。1パック1500円の辛子明太子を同じ値段で2パックにする――といふので、欲に駆られてしまひ、姉さん(大野佐恵さん)を口説いて共同購入したのですが、翌日食べてみたら並の品で、無着色の高級品には及ばぬ品でした。姉さん、御免なさい。夜の部のデザート用に購入した一盛り1000円(5、6房)の葡萄は当りでした。夜の部は総勢14人、6時半から11時まで、楽しく過す事ができました。

★《江戸の伝奇小説》第1巻刊行
6月下旬に《江戸の伝奇小説》の刊行が始まり、第1巻の『復讐奇談安積沼・桜姫全伝曙草紙』を出す事が出来ました。本来ならば、去年の今頃に刊行開始の筈だつたのでありますが、何やかやと延引致し、礒崎編集長には多大なる御迷惑に及び、反省致すこと頻りであります。この《便り》では、常々「偏執長」とか「変酋長」などと揶揄気味に記してはをりますが、これは記事を面白くしたいといふ私のサーヴィス精神(?)の表れでありまして、実は心底には感謝の念が溢れてゐるのであります。元来が仏蘭西文学やボルヘスや吉田健一などに深い造詣を有する礒崎さんが、《日本古典文学幻想コレクション》以来、私にこの種の仕事を依頼して下さつてゐるといふ事をよくよく考へてみれば、「今どき他に何処の誰方が、かかる文業に理解を示してくれようか」と、その度量の深さ、また公平なる文芸観に、自づと気づく筈であり、私としては唯々感謝致すほかはありません。面と向かつては申し上げにくいので、ここに表明しておく次第です。偏執長、見てね!
第1巻を出した時点で、詩人の相澤啓三さんや仏文学者の川口顕弘さんから思ひもかけぬ御理解深きお手紙を頂き、殊に文体に言及して下さつた事を嬉しく受け取りました。如何に古格を崩す事なく現代語に移すか――といふ一点に全てを傾注して苦しんでゐるものですから、聊か報はれた思ひを味はつてをります。これを糧に続巻を進めて行きたいと思ひます。次回配本分は『飛騨匠物語』を終へ、これから『絵本玉藻譚』にかかるところですが、その前に、この《便り》を打つてしまひませう。『飛騨匠物語』は面白い話なのですが、擬古文めいた非常に粘着質の文体なので、かなり苦しめられました。比べれば『玉藻』の方は、ずつとすつきりしてゐるやうなので、果(はか)が行きさうです。でも、取らぬ狸の……と申しますから、心して取りかかる事と致しませう。

★久しぶりの開催
1989年に《倶楽部トランシルヴァニア》といふ私的な会を作り、毎月私の家でささやかな集まりを持つてきましたが、この数年来、開催が間遠になつてしまひました。会名は私が勝手にかう呼んでゐるだけで、皆さんの御承認を受けてゐる訣ではなく、《東京幻想倶楽部》とか《忌憚倶楽部》とか、いろいろ御意見がありまして、正式な呼称は未だに決まつてをりません。
《江戸の伝奇小説》の刊行も始まつた事ではあり、たまには開いてはどうかとの御提案が礒崎さんからありましたので、吉村明彦さんにお願ひして、7月4日、吉村邸にて開いて頂きました。礒崎さん、吉村さんの他に、服部正さん、小川功さん、東雅夫さんが御出席、吉村さんと夫人の久美子さんのお持て成しを受けて、久しぶりに楽しい刻を過す事が出来ました。国書刊行会が9月から刊行する『日影丈吉全集』の事に始まつて、久生十蘭と日影丈吉の文体やスタイルの比較論から、小説の理想的なスタイルまで、話は真面目な話題(?)に及びました。日影さんの全集の内容見本には、私も推薦文を書いてをりますので、是非御覧下さい。私は、長篇では『内部の真実』と『地獄時計』が好きです。
格闘技マニアの小川さんと、ボディビル・マニアの吉村さん(御自分はなさらないらしい)の会話が、噛み合ふやうで微妙にずれたりして、聞いてゐて面白かつた。小川さんは控へめな方で、あまり御自分から話し出す事は無いのですが、バロック音楽(カストラートも含めて)の話題では礒崎さんと話が合ひ、死体写真とかフリークスの話題では服部さんと意気投合するといふ具合で、実に不思議な人です。私とも共通の話題があるのですが、それは、秘密です。会は頻繁に開きたいのですが、私に余裕が無いものですから、はたして次回はいつになる事やら。
★大ファン?
 名古屋の友達がBS放映の映画を録画しては、時々まとめて送つてくれるのですが、先日届いた分に、15年くらゐ前、《ソ連映画祭》みたいな催しで見た『スタフ王の野蛮な狩り』といふ旧白ロシア共和国(今のベラルーシ)の作品があり、再見を熱望してゐた作品なので、直ぐにも見たいのですが、我慢してゐます。映画の他にも、歌舞伎やオペラなど地上波でやらないものも時折頼みます。歌手のライブなども放映するやうなので、この前、電話で話した時に「福山雅治のコンサートとかやつたら、録つてよ」と頼んだら、「アンタ、いつから福山のファンになつたのよ」と問ひつめられてしまひました。
「いつからつて、『ヘヴン』とか良かつたし……、『福山エンジニアリング』も面白いしさ、大ファンなの」
「へえ一、ぢやあ、CDとか持つてるわけ?」
「この間、ブックオフで百円で1枚買つて持つてるよ」
「コンサートは?」
「行くわけないでしョ」
「ああ、その程度なのね。テレビでたまに見て、ブックオフでCD1枚くらゐ買つたつて、そんな人は、大ファンだなんて言へないよ」
ご尤もな仰せ、でも悔しいから「アンタだつて、マッキーとか好きぢやない?」と応酬したら、「僕はアルバム5枚持つてるからね。クスリなんかやつて馬鹿ね、あの子、でも可愛い」だつて。若い頃は、贔屓の歌手がコンサートをやれば駆けつけたけど、40歳を過ぎてからは、そんな事もなくなり、レコードも殆ど買はない。福山だつて、彼の若かりし頃は妙に生ツちろくて大して興味も無かつたのに、最近落ちついた感じで、ちよつといいなと思つただけなんですよね。百円で買つたCDもミニ・コンポが壊れて聴く事が出来ません。ビックカメラの有楽町店がオープンした時、CD・MD・カセットが聞けるアイワのコンポが目玉商品として1万円で出てゐたのを買つておけばよかつた……。福山はともかく、好きなバロック音楽やシャンソン・タンゴ・フラメンコなども聴取不可能の状態でありまして、かうなると余計に聞きたくなります。門前仲町の電気屋でローンで買はうかと思つたりしますが、長年使つてきたクーラーも何だか変な音を立て始めたので、これも新調しないと……。おまけに近々賃貸契約の更新もあるし……、悩みは尽きません。
〈美形男性アナウンサー〉の話題といふのも用意してゐたのですが、まあ又の機会に致しませう。「CXのキムタク」とか言はれてゐるフジTVの渡辺和洋クンはちよつと素敵ですよ。TBSの安住紳一郎はアッといふ間に人気が出ちやつて、私は引いてます。「12チャンネルのオカマ」とひやかされてゐたイケガヤ君はどうしてゐるかしら?
カルチャー・センターは夏はお休みします。10月から、朝日では《妖しくも美しき歌舞伎》を、西武では《植物ファンタジー》を、それぞれ開講致します。詳細はまたお知らせします。
台風がよく来ますねえ。露台では昼顔や朝顔も咲き始めました。暑い日が続きますが、皆さん、御大切にお過し下さい。    7月18日