明石町便り

須永朝彦を偲んで

■著作撰(書影集)
■入手可能著書一覧

須永朝彦バックナンバー

1・日影丈吉
◆給仕少年の推奨献立
◆色のない絵具
◆さまよへる悪霊、或は屈託多き女
◆日影さんのこと

2・井上保&森茉莉
◆殉情は流るゝ清水のごとく
◆Anders als die Anderen
◆『マドモアゼル ルウルウ』奇談

3・泉鏡花
◆魔界の哀愁

4・堀口大學
◆堀口先生のこと

5・足穂&乱歩
◆天狗、少年ほか

6・郡司正勝
◆郡司先生の憂鬱ほか

7・菊地秀行&小泉喜美子
◆美貌の都・月影に咲く蘭の花

8・高柳重信&中村苑子
◆るんば・たんば・『水妖詞館』の頃

9・バレエ
◆アンドロギュヌスの魅惑

10・ディートリッヒ
◆蛾眉

11・内田百間
◆片づかない氣持がする

12・和歌・短歌
◆戀の歌とジェンダー

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明石町便り19・續
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《明石町便り3  2002/1/9》


◆お久しぶりです。11月は近況を更新出来なくて、時々覗いて下さる皆さん、御免なさい。唯々慌しかつたと思ふばかりで、何で忙しかつたのか、よく思ひ出せません。日記とかつけないし、手帳を見ても、外出とか誰かに会つたとか、そんな事しか書いてありません。外出は、カラヴァッジョ展を見に行きました。人形作家の曽根さん、フリーライターの吉村さん、シモンさんのマネージャーの菅原さん、《ですぺら》の薫子さん。平日なのに大変な鑑賞者の群、それも御老人が多い。庭園美術館は都立なので、65歳以上は無料なんですね。かういふ時だけは、自分が65歳以下なのがくやしい。菅原さんは相変らずリュウとしたお召し物で恰好よく、真田広之みたいでした。
 11月23日には、赤坂の《ですぺら》で郡司正勝先生の遺稿集『芸能の足跡』の出版記念会を催しました。ごく内輪のささやかな集まりだつたのですが、店主の渡邊一考さんの肝入で、一夜を楽しく過す事が出来ました。編集した私が言ふのも手前味噌めいて聊か気が引けますが、素晴しい内容ですので、御一読を願ひ上げておきます。

◆「故障が入り」と記しましたが、実は、交通事故に遭遇して、この歳で初めて救急車といふものに乗つてしまひました。22日、中央区某所T字路の横断歩道を自転車にて通行中、右手から来たワゴン車に衝突され、道路に仰向けに投げ出されたのであります。自宅そばの聖路加病院に運んで貰ひ、種々検査の結果、5箇所の打撲といふ軽傷で済みました。診断書は全治10日。ただ左肘を打つたために、左手が胸より上に上がらず、顔を洗ふのも、キーボードを打つのも難事で、甚だ不便を喞つてゐます。加害者の上司が見舞に来訪したり、保険会社から何度も電話がかかつたり、ちよつと欝陶しいですね。数年前にも、自転車で銀座へ買物に行つた帰りに、停車中の車の陰から突然現れた宅配便の台車にぶつけられた事があり、もう自転車に乗るのは止めようかとも思ふのですが、自転車が無いと銀座・新橋・月島・深川などへ買物に行くのが億劫になりさうです。

◇『美少年日本史』、近刊予告には甚だ楽観的に「2001年末」と記したのですが、結局、間に合ひませんでした。旧知の稲田雅子さんに8回に亙り御足労を願つて、私の話を1回につき150分テープ1本分録音し、喋り言葉のまま原稿に起して頂きました。それに手を入れた訣ですが、何ぶん「お喋り」といふものは重複と粗漏の多いものですから、多くを削り、また多くを補足するといふ作業が延々と続きました。改めて調べ始めると際限も無い始末で、国書刊行会の礒崎変酋長も、さぞ気を揉まれた事でせう。大詰の段階で、また故障が入り、年末に至つても完遂できませんでしたが、来年2月末刊行と決まつてしまひましたので、遺漏のある箇所、手薄な所はゲラが出た時点でまた手を入れるといふ事で、偏執長にフロッピーを渡しました。
 引き続き、三年越しの『鏡花曼陀羅』の未成稿部分を何とか完成させて、一日も早く刊行に漕ぎつけたいと念じてゐます。

◆カルチャー講座は、朝日が〈前編〉を、西武が〈日本編〉を、それぞれ終了、次は1月中旬からなので、一息ついてゐます。朝日の受講者は年齢層が20代から70代まで様々なのですが、西武は30歳前後に集中してゐます。やはり同世代が多いと一体感が生ずるやうですね。そんなわけで、またまた《ですぺら》の御厚意に与かり、12月1日に西武の受講者の方々と懇親会を催しました。お酒を嗜む方も、さうでない方も、皆さん、よくお喋りになつて、楽しかつたですよ。小説や歌舞伎の話題はもとより、ほかにも「仮面ライダー*アギト」とか、ドラマの「アンティーク」とか、昆童虫(コンドーム)さんの漫画とか、皆さん、何でも御存じです。私は失礼したのですが、場所を替へて朝まで頑張つた方々もいらしたやうです。また、新年会でも開きませう。
 西武の講座は4~6月も受け持つ事となり、『変幻する禽獣たち』と題して、狐の女房や蛇の花婿など、日本の文芸・演劇に登場する動物たちの事をお話する予定です。詳しくは、またお知らせ致します。

◆12月1日と申せば、俳人の三橋敏雄さんが逝去されました。
  かもめ来よ天金の書をひらくたび
 無心の翹望を籠めて羽ばたく、この秀抜なる一句は16歳の作とうかがひました。西東三鬼と渡邊白泉に師事して、天才俳句少年として出立した三橋さんは、その後、古俳諧なども研究、俳壇きつての技術を誇る手練(てだれ)となられました。句集は『青の中』『弾道』『まぼろしの蜷』『眞神』『鷓鴣』『疊の上』『しだらでん』など。手先が器用で、昔ながらの凧なども巧みにお作りになりました。籤(ひご)を組んで、武者を描いた和紙を貼る、大きな凧です。三橋さんの字は劃然たる書風で、亡き高柳重信さんから「事務屋の書く字だ」などとからかはれてゐましたが、私は好もしく受け取つてゐました。『泰西少年愛読本』を差し上げた時、
  ボーイソプラノ生生世世を渡る春
 といふ句を頂戴しました。洒脱な方ではありましたが、流石にこの句は珍しい御作と観ぜられました。染筆して頂いた時に撮影した写真がありますので、御覧に供します。

染筆

◆最後に咲いたネリネ・クリスパや凝血色の菊の花もすがれて、私の露台は寒々としてゐます。大体、11月末から2月末まで全く陽光が差さないので、その間、植物たちは私同様の日陰者となります。今、残つてゐる色と申せば、メデューサといふ園芸種の唐辛子の朱色と、冬に葉を繁らせるリコリス類(彼岸花科)の鮮緑色くらゐです。11月まで咲いてゐた鳥兜とネリネ・クリスパのフォトをお目にかけます。クリスパは花辮が縮緬状に撚れるところに殊色があります。春には沢山咲きますので、また御覧に入れませう。
ネリネ・クリスパ  鳥兜

◇引き続き、罵言・言ひがかり・御質問など、お受け致しますので、御遠慮なくお寄せ下さい。また、中古パソコンおよび富士通の親指シフト・ワープロ、未だ入手出来てをりませんので、御不要の方がいらつしやいましたら、是非お譲り下さい。お蔭様で、売立書籍も3分の1ほど売れました。リストには新たに書目を補充しておりますので、御関心のある方は御請求下さい。それでは、また。   12月29日